1巻〜5巻  作・画/白岡 彪

 私自身、家具デザインの仕事をしてきた中で大切にしてきたことがあります。それは、何にでも興味を持ち、そこから発見し、創造すること。そのときの心が沸き立つ感覚は、人間の根本的な欲求であり、子どもも大人も一緒だと思います。


 この「木のえほん」は、子どもが想像力を膨らませ、大人が読んでも楽しめるように作りました。描いたストーリーは、私が住む鳥取県東部にまつわるものです。神話伝説「いなばの白うさぎ」などの物語、松葉蟹や二十世紀梨といった食材、鳥取砂丘や日本海などの観光資源…。豊かな自然とそれらが生み出す食材や良質な素材、人々が編んできた文化が息づいています。この地域資源の素晴らしさを多くの人に知っていただきながら、ストーリーにこめたテーマである「発見」「交流」「創造」「活性」「評価」という、人が生きる上で大切になることも、伝わるものになればと思っています。


 子どもたちにとっては、幼い頃に触れたものの思い出はいつまでも残るものでしょう。だからこそ、鳥取が誇る素材にこだわりました。江戸時代から伝統を受け継ぐ智頭杉を厚さ7mmにして4枚使い、因州和紙を要にして製本。森の匂いをまとった智頭杉には、手触りのやわらかさと肌に感じる温かみ、1枚1枚が違う表情を見せる木目の美しさがあります。また、この立体絵本はとびうおや白うさぎといった主人公を切り抜く仕掛けをつくりました。物語が進むにつれ、主人公たちは海から山へと雄大な自然を駆け巡ります。ストーリーを楽しみながら、子どもたちは切り抜かれた部分から覗いてみたり、何かを挟んでみたり、いろいろな遊び方を考えるかもしれません。遊び方は自由。子どもたちの無限の想像力を掻き立てます。


 この絵本が日本中、いや世界中の人の手に渡り、いつの時代も生きる人々の心に届くこと、そして、鳥取という小さな地域のことを知ってもらうきっかけとなり、文化や産業が発展していくことに寄与できることを願っています。


作者プロフィール/白岡 彪(しらおか ひょう)

1941年愛媛県新居浜市生まれ。
1980年に株式会社ヒョウデザインを鳥取に設立。家具のデザイン、プロデュースの他、鳥取の地域資源を使った商品開発も手掛けている。
また、鳥取の地場産業をテーマにした執筆なども行い、2021年に初著書となる「窯元の女房」を出版。鳥取市文化賞受賞。

6巻〜10巻  作・画/キモト アユミ

岐阜県の自然豊かな場所で育った私は、自然界にはどんな物語が広がっているんだろうと想像することが好きでした。そんな頭の中で楽しんでいたことを、絵本を通してどんな風に描けるだろうかと考えました。

 1~5巻にある自由な物語の世界観は引継ぎ、6~10巻では鳥取の自然から想像される物語に自分流の解釈をプラスしました。日常的に深く興味を抱いている「水」があちこちに現れたことも偶然ではないように思います。さらに、テーマについて詳しく調べるうちに、なるほど!と心動いた実際の情報も加えています。表面ではなくもう一層深いところを取り上げ、鳥取に住んでいても知らなかったことに一歩踏み込んで触れてみることで、新しい鳥取の魅力にスポットが当たる気がします。

 ストーリーを考えていた時期に、カンボジアに旅に出ました。自分が今まで持っていた固定概念を覆される体験をいくつもしたことで、違う視点から見てみると物・事の意味が変わってしまうことを痛感しました。その体験からこの創作で大切にしたのが「余白をつくる」ことです。これはこう!と言い切ることはせず、読む人に投げかけたり、想像を膨らませてその後も考えてもらえたりするように心がけました。物語に正解はありません。人それぞれの視点で、感じ、考え、物語を広げて楽しんでもらえたら嬉しいです。それと、こっそりと絵本の中に仕掛けのようなものを入れてあります。どこまでみなさんに気づいてもらえるか私自身も楽しみですし、何かあるんじゃないかと絵本を楽しみ尽くしてもらえたら嬉しいです。

 この「木のえほん」は紙の絵本とは違い、鳥取の素材や技術や手仕事が詰まっていて、どちらかというとプロダクト製品のようで魅力を感じます。製材・印刷・加工をひとつひとつ人の心と目と手で行っているし、杉という素材も湿度や温度に反応し生き続けていて、ひとつひとつが同じものにならず、読む人の手元でさらに育ち続け、時間を重ねる楽しさがあると思います。

作者プロフィール/キモト アユミ

岐阜県徳山村に生まれ自然の中で子ども時代を過ごす。
1997年より東京を拠点にイラストレーターとしての活動を開始。
2012年に鳥取県に移住し、創作活動を続けながら鳥取の自然との付き合いを満喫している。